入社三年目の春、西ドイツ(当時)への駐在を拝命し、憧れの地に着任しました。二度目の駐在も含め、通算十六年間、様々なことを学び、体験することが出来ました。駐在地は、今では誰でも知っているデュッセルドルフ市(以下DSD)で、滞在期間は1966~74と1983~91の2度にわたります。
DSDは、ドイツ産業の中心地であるノルトラインヴェストファーレン州(NRW)の州都で、人口約60万人の中堅都市です。因みに市名のドルフは「村」を意味しており、シューマンで知られるDSDも、かつては小さな村落だったことを偲ばせます。当時の西ドイツ総人口は6000万人強ですから、約1%に該当します。当時の日本人駐在員(家族含む)の数はDSDで500人程度、ハンブルク(800人前後)の方が上でしたが、すぐに逆転し、3000人程度に増えました。その後、6000人前後に定着しましたので、これまたDSD人口の約1%に該当します。バブル崩壊の直前には一時的に8000人以上に増えたようです。
DSDの気候は暗くて長い冬と短い夏に象徴されます。地図で確認して戴ければ判りますが、日本を欧州に置くと、南ドイツから地中海、北アフリカにまで及びます。樺太の真中は北緯50度ですが、DSDはその更に北です(同51度)。ロンドンも51度、パリとミュンヘンが48度、札幌はずっと南の43度です。因みに東京は35度で、カイロ30度、那覇26度と並べてゆけば、日本が相対的に南部に位置していることが判ります(緯度は概略)。その割に暖かいのは、海流と偏西風の影響でしょう。一般に大陸の西側が暖かく、東側は寒いと言えます(北半球)。日本の東北地方や信州あたりと同じような気候と考えて下さい。
雪はたまに積りますが、北日本ほどではありません。ドイツは北低南高の地形なので、南の方が寒いのです。勿論北部もそれなりに寒いのですが、中西部のライン地方が一番温暖です。かつてはライン川も冬場に凍結することがあったそうですが(1960年代はじめ)、今は温暖化の影響で、私の滞在期間中は一度も凍結していません。一度だけ日中の気温が零下20度程度になり、幻想的なダイヤモンドダストを体験することが出来ました。ドイツには日本の様に明確な四季はなく、逆に一日に四季があるとも揶揄されます。旅行するなら5~6月がベストでしょう。
さて前置きが長くなりましたが、限られた中で体験できたことを少しお話したいと思います。記憶が確かでない点や、40年以上も前の断片であること、或は前後の繋がりがないこと、時に脱線することなど、ご容赦下さい。ひとつだけ言えることは、ドイツはインフラも整備されており、日本ほど大きく変化しない、成熟した国だと言うことです。日本では、渋谷や新宿、六本木など戸惑う ばかりですが、DSDは40年前とほとんど変わっていません。限られた時間なので、どれだけご紹介できるか不安ですが、ご容赦下さい(事実お話できなかったことが多いので、この場で追加しました)。
ドイツの先進的な取組はご存知の通りです。広い歩道のコーナーに大きな吊鐘型の鋼鉄製容器が三つ置いてあり、新聞雑誌など紙類、白いガラス容器、色つきのガラス容器に分けて捨てます。時折、大型のクレーン車が来て、吊り上げ回収します。どこかの国のように、紙資源が業者に盗まれることは ありません。余りに大きいので満杯になることもなく、さりとて歩道が広いので邪魔になることもありません。周囲が汚れることもなく景観を損ねていない点に感心しました。
一般の家庭ごみ(生ごみなど)は、各建物の入口近くのスペースに鋼鉄製の容器が置いてあり(一家庭一個)、毎日収集車が来て回収します。円筒形の容器を斜めにして、片手でくるくる廻しながら車まで楽に運ぶのに感心しました(持ち運びは大変です)。子供たちが喜んで見ていたことを懐かしく思い出します。
日本では毎年大量の犬猫が保健所に捕獲され、殺処分されています。かつては100万、最近でも30万匹前後が犠牲になっているようです。これは実に悲しい事実です。皆さんは、ドイツでの殺処分がゼロということをご存知ですか。どうしてそれが可能なのか?一つは国民性の違いでしょう。彼らは命を大切にします。動物の命を売買するペットショップは、ほとんど見当たりません。特に陳列販売は法律で禁止されています。日本では堂々と売られていますが、売れ筋は恐らく一歳以下、では一歳を超えた犬猫はどうなるのでしょうか?考えただけで身の毛がよだちますね。
ドイツには犬税があります。ベルリンで年間120Eu、二頭目からプラス180、ケルンでは156など自治体によって異なりますが、50~100Eu程度です(1Eu 約140円)。税収は全独で約300億円にのぼります。これで動物の家(Tierheim)を作り、保護された犬を飼育しています。またホームレスのほとんどの人は犬を飼っています。国から補助金が出るからです。一頭でも多くの犬を救うためですが、動物を育て、共に生活することで心を豊かにし、社会復帰につなげて欲しいとの考えもあるようです。
犬の購入はブリーダーか里親募集のTierheimに予約しますが、一頭220Eu程度です(不妊手術費、マイクロチップ代など)。購入できるかどうか、厳しいチェックもあるようです。一日に少なくとも二時間相手をする、また同じく二時間の散歩が義務付けられており、違反すると罰金が課せられるそうです。
ドイツの住所表示は、ほとんどの欧米諸国がそうであるように、通りの名前を記します。大きいAleeから普通のStrasse、小道のGasseやWegまで、すべての通りに名前が付けられています。そして片側が奇数、反対側が偶数となっているので、探すのが大変便利です。日本はブロック表示なので、探すのが大変ですね。また道路にも、明治通りなどの例外を除けば、名前がありません。わざと判りにくくしているのでしょうか?
ロマンチック街道やメルヘン街道など、人気の街道が沢山あります。ドイツ観光街道と総称されていますが、全部で150以上あるようです。中でお薦めは「木組の家」街道(Fachwerkstr.)です。全部で7コース、全長3000㎞の魅力たっぷりの道です。白壁に斜交の黒い木組と赤い屋根が代表的なスタイルで、ひとつとして同じものがなく、それぞれ歴史の重みを伝えています。
どの集落にも石畳のマルクト(広場)と教会があり、中世の街に迷い込んだように感じます。DSDの郊外にも典型的な中世の街が保存されています(Zons)。妖精が住んでいたのかと迷うばかりに魅力的です。
多くの都市には、旧市街(アルトシュタット)があり、DSDのそれも楽しい一帯です。新橋のように、多くの飲食店があり、遊ぶならアルトシュタットです。
4月から消費税が8%に上昇しますが、ドイツの付加価値税は現在19%です。但し軽減税率を導入しており、農産品・水道水・書籍・新聞・運賃・医療器具などは7%、また不動産取引・賃貸・金融保険・医療・教育・郵便等は非課税となっています。欧州の多くの国も、付加価値税は20%前後ですが、一様に軽減税率を適用しており、特に生活必需品は低く抑えられています。何でも真似する日本が、どうして?と疑問を抱いてしまいますね。
復活祭は、厳密に言えば11月11日午前11時11分から始まりますが、2月の第2週または第3週の木曜日からの一週間がピークです。その中で初日の女のカーニバル(Weiberfastnacht)は要注意です。女性が市庁舎など権力の中枢へ乗り込み、主導権を握ることを宣言、権力の象徴であり、男性のシンボルでもあるネクタイを切取ります。わざと抵抗して逃げますが、最後には切られてしまいます。ご褒美は頬に軽いキス。女性はその戦利品を事務所の壁などに飾りつけて、意気軒昂。旅行中や出張中の男性も例外なく狙われますので要注意です。その日は、古いネクタイを着用するのが習わしです。
5日目の月曜日(Rosenmontag-薔薇の月曜日、Rasender「馬鹿騒ぎの」がRosen「薔薇」に変化したようです)のパレード で祭は最高潮に達します。特にライン地方で盛んで、DSDの他ケルン、マインツのパレードが有名です。仮装した人々が山車に乗り、ヘラウ!と叫びながら飴などをばら撒きます。歌あり踊りありの、まさに馬鹿騒ぎです。色んな地域・団体などが参加するので、行列は何キロにも及びます。
復活祭前の46日間は断食期間で、その前に肉などのご馳走を思い切り味わっておこうということから、carne vale (肉よ、さらば)となったそうです。
他にもご紹介したいことが沢山ありますが、紙面の都合上テーマだけを走り書きしておきます。詳細を知りたい方は、ネットで検索するか、小生宛ご連絡下さい。
- 食材: ベストは白アスパラガス。5月頃、太くて長く柔らかい立派なものが安く大量に供される。極めて美味。
- ビール: 一人当たり消費量は世界一。地ビール多く、約6000種類。DSDではもっぱらアルトビールを飲む。AltはOldのことで、上面発酵ビール。製造方法の歴史が、現在主流の下面発酵ビールより古い。18~19世紀、温度管理が困難な時代、15~20度で発酵するこの種のビールが主流であった。
- 音楽: DSDでは4種類の定期コンサートがある。DSD シンフォニカー(交響楽団)、マイスター コンチェルト(一流の演奏家)、カマームジーク(室内楽)、それに現代音楽。
教会の音楽会も充実。ラジオの音楽番組(WDR3)は、まさにクラシック音楽のみ。ニュース・天気予報など一切なし。解説などの話もないので、音楽好きにはたまらない。
小生の好きな楽器はチェンバロ(ハープシコード、クラブサン) 音楽史は50年単位で考えると判り易い(ルネッサンスは100年単位で1400年代、1500年代)。1600~1750までのバロック前・中・後期、前古典派(~1800)、古典派(~1850) ロマン派(~1900)、現代音楽。小生が最も注目しているのはバッハとベートーヴェンを繋ぐ、1750~1800年の前古典派。 - 学校の夏休み: 集中の混乱を避ける為に、州ごとに開始時期をずらす。不公平を無くす為に、年ごとに変更する。期間は6~8月の内の約40日間。良い制度である。
- 有給休暇: 最低20日間の休暇が取得できる。勤務年数によりプラスα。土日は計算に含まれないので、最低4週間、夏・冬 に各2週間、春か秋に1週間の休暇が一般的。病気の場合、医師の診断書があれば、有給休暇を充てる必要はない。
- 生活習慣や躾: 窓の掃除は余りにも有名。窓が汚いところは外国人が住んでいると揶揄される。午後3時前後は、音を出さないこと。昼寝など静かに過ごす時間帯である。50年近く前から、洗濯機は温度調節機能付で、とても便利。すぐに日本のメーカーも導入すると思ったが・・・。電車では、子供は席に座らない。これは徹底している。車の免許取得について。初日いきなり路上運転、二日目にアウトバーンへ出る。
- 報道関係: 新聞は地方紙、タブロイド紙が主力でキオスクやたばこ店で買う。高級紙は極めて少なく、郵便で送られる。所謂新聞配達は無い。テレビは公共プラス民放。かつては、CMを夕方まとめて流す方式だったので、感心したものだ。 今は、CMが増えてうるさくなったとの声も聞く。
- 医療費: とりあえず全額支払い。後で保険会社から返還される。日本の1~3割負担は、実際にかかった費用が明確でない。眼鏡も医療費に含まれる。これは助かる。
- 買物: 商店の営業時間は、午後6時まで(木曜のみ8時まで可)土曜日は午後2時まで。日曜は休み。
-完ー